ハピネスは吸血鬼になってしまった少年や、登場人物の葛藤をテーマにしたちょっぴり切ない漫画です。
作者は「惡の華」「血の轍」等の数々の作品で有名な押見修造さんです。

概要

  • 作者:押見 修造(おしみ しゅうぞう)
  • 掲載:別冊少年マガジン(講談社)
  • 期間:2015年~2019年にかけて連載
  • 巻数:全10巻(完結)

あらすじ

高校1年生の岡崎 誠(おかざき まこと)は、昼休みにクラスメイトからパンを買いにいかされるような、小柄で気弱な少年。

周りとうまく馴染めず、自宅では、誠とは正反対な活発な兄と比べられ、浮かない毎日を過ごしている。
 
ある日、誠はレンタルしていたDVDを返し忘れていたことに気づき、夜中に自転車で外出した際に、美しい吸血鬼の少女、ノラに襲われる

ノラに血を吸われた誠は、ノラの「このまま死ぬ?」という問いかけに「死にたくない」と答え、そのまま殺されずに意識を失う。
 
病院で意識を取り戻した誠であったが、次第に人間の血を吸いたい光がまぶしいなど、体の異変を起こすようになる。
 
そして、血を吸いたい衝動にかられた時、我を失う衝動的な行動を起こすが、それがきっかけで自身をいじめていた主犯の大野 勇樹(おおの ゆうき)に反撃

クラスメイトから見直され、いじめられることはなくなるが、誠は自分の意志ではない行動を起こしたことで言いようのない不安感に襲われる。
 
誠が繰り返し血を吸いたい衝動にかられ、理性と本能のコントロールに苦しむ際、同級生の五所 雪子(ごしょ ゆきこ)に助けられ、正気を取り戻す
 
五所雪子も誠と同じく周りと馴染めておらず、二人は互いに大切な存在になっていくが、自分が正常ではないと自覚する誠の心は、周りの人間と吸血鬼との間で揺れ動いていく。

登場人物紹介

岡崎 誠(おかざき まこと)
高校に通う、冴えない毎日を送っている気弱な少年。ノラに襲われ、人間の血を吸わないと正常を保てない体へとされてしまう。同級生の五所雪子や家族との絆を大切に想っているが、正常な人間として生きていけないことへの葛藤から、ノラとも心を通じ合わせるようになる。人間と吸血鬼との間で気持ちが揺れ動き、苦しんでいく。

ノラ
美しい吸血少女。並外れた跳躍力を持ち、夜な夜な街に繰り出しては、人間の首筋に噛み付き血を吸っている。ある日、誠に噛み付くが、彼を殺さずそのまま立ち去ってしまう。その後、他の吸血人間と争う誠の前に現れ、彼を助ける。人間の世界では生きられないと誠を悟し、共に生きようと誘いかける。

五所 雪子(ごしょ ゆきこ)
誠と同じ学校に通う同級生の少女。「っす」「すか」を語尾につけて話す。他の同級生とは馴染めず、休み時間は窓から空が見える廊下階段で一人で過ごしている。誠と階段で過ごす時間が増えていき次第に心を開いていく。病気で亡くなった弟と誠が似ているため、特別な感情を抱き、常に誠を助けたいと思っている。

大野 勇樹(おおの ゆうき)
誠をいじめていたクラスメイトの主犯。血を飲みたい衝動にかられた誠に反撃を受ける。この件以来、周りの仲間から雑な扱いを受けるようになり、つるんでいた不良グループからも暴行を受けるようになる。幼少時代は両親に放ったらかしにされ、恵まれない環境で育っている。

白石 菜緒(しらいし なお)
勇樹の彼女。誠ともクラスメイトで、勇樹と同じく誠をいじめていた。勇樹とは小学校からの幼馴染であり、勇樹の恵まれない幼少時代を知っており、彼のことを見捨てないと強く思っている。

見どころ・おすすめポイント

巧みな心理描写

登場人物の感情を言葉ではなく、表情やしぐさで見せるところがすごく巧みです。

家族での夕食の風景などでも、誠(まこと)は「ごちそうさま」しかしゃべっておらず、黙々と食器を片しにいくだけなのですが、ここの描写だけでも、兄に劣等感があることがわかる描き方をされています。
 
また、誠(まこと)が学校でも水をゴクゴク飲むシーンが1コマだけ、所々にさりげなく挟まれていたりなど、血を飲みたい衝動を押さえ込もうとしている描写が細かいです。

特に、衝動が抑えられないときは、他者の顔や風景がありえないくらいにグニャグニャに曲がっちゃうのが独特で面白いです。

セリフがあまり多くないこともありますが、巧みな描写に引き込まれ、夢中で読んでしまいました。 

激しい吸血シーン

そして、吸血シーンはエグイです。他の吸血系の漫画と比べると、出血の量がハンパないんですね。

さらに吸った後に首筋を噛み千切って、殺してしまったりなど、殺傷能力がメチャクチャ高いんです。
 
私はエグい描写の漫画を好んで読んでいるのですが、首と目が刺されたりするシーンだけちょっと苦手で、「うわ..ちょっと待って..」と思ってしまうほど、エグいと感じるところがありました。

地味だけど芯の強い五所雪子

登場人物では五所 雪子(ごしょ ゆきこ)が魅力的でした。

美しい顔立ちのノラや白石菜緒に比べると、地味な顔立ちなのですが、素朴で芯が強い一面に惹かれます。

クラスでは一言もしゃべっていないようで、誠(まこと)と話している姿を見られ、クラスメイトに驚かれるほど。

すごく大人しそうで、感情を出さなそうな子が、誠に対しては亡くなった弟を重ね、感情もあらわにするギャップが良かったです。

「ハピネス」の感想まとめ

ストーリーについては、個人的な意見ですが、5巻あたりから急激に面白くなっていくように感じました。

五所 雪子(ごしょ ゆきこ)がメインとなっていくのですが、彼女が抱える過去の「闇」の部分が鮮明に描かれていて、その痛々しさは物悲しいものがあります。

登場人物がそれぞれの人生にもがき苦しみ、必死に生きようとする姿が最後まで飽きさせません

吸血鬼として生きていく誠(まこと)と、人間として生きていく登場人物たちの人生の違いに、読み終わった後は切ない気持ちになりました。

日常が退屈なとき、ちょっと覗いてみたい漫画です。